心不全を起こさない働きをするEPAの代謝物とは

青魚が何故身体に良い事になったのか

理研の有田誠先生が、ω(オメガ)3脂肪酸とりわけても「新たなEPAの姿」を解明しました。

心不全の発症を抑制するEPA代謝物の存在が明らかになったのです。

イヌイットの食生活から注目され始めた「魚の油」

ω3脂肪酸が万能選手の、健康のスーパーマンのようになったきっかけは、1960年代にグリーンランドに住むデンマーク人と、イヌイットの人々を比較した疫学調査でした。

イヌイットは心筋梗塞になるリスクが極めて低いことや、リュウマチの様な自己免疫疾患も発症率が低いことが、明らかになりました。

血液を調べた結果、イヌイットではデンマーク人と比べて、DHA・EPAといったω3脂肪酸の割合が高く、デンマーク人で多くてイヌイットでは少なかったのは、アラキドン酸などのω6脂肪酸でした。

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良い油と悪い油?

ω3もω6も栄養的には、必須脂肪酸で摂取すべきものです。しかしデンマーク人とイヌイットの違いは主食が牛肉とアザラシの違いでした。

そしてアザラシのエサが魚というわけで、どうもこれが急性心筋梗塞のような突然死を防ぐ要因ではと、考えられたわけです。そこから「ω3は」で、「ω6は」の構図が現在までも、引き継がれてきたようです。

そして1999年と2007年には、高濃度のω3を、心筋梗塞の経験者や高コレステロール血症の患者に投与すると、心臓機能や血管の状態が改善して、イヌイットの人々が急性心不全になりにくいことが、裏づけられました。

ω6のアラキドン酸が代謝されると、炎症を促進する物質や血液凝固作用のある物質が生成される。ω3のEPAはこれらの物質が生成されるのを、阻害することで炎症抑制し、血も固まりにくくすると考えられています。

EPAには、この様な間接的な緩和作用があるというのが、長年中心にあった考え方です。

これも重要であることに違いありませんが、他にももっと直接的な働きがあるのでは?、と言うのが今回の有田先生の研究でした。

代謝のブラックボックスに迫る

私たちが何かを食べて身体に効いているというのは、「食べたもの」とその「結果」だけを見ていてその過程はブラックボックスで、入り口と出口しか見えていないと、有田先生はおっしゃいます。

ではω3に、

機能性がある代謝物があるとしたら、どんな物質なのか?

そして、

それはどのように機能するか?

こうしたメカニズムを分子レベルで解明するには、従来の研究問題点ともいえる2つの壁がありました。

  • 1つめは外部からω3を投与する実験の精度や再現性。
  • 2つめが代謝の全体像を把握できていなかった。

しかし有田先生はそれを克服する2つの武器がありました。

ω3脂肪酸を体内で作れるマウス

まず実験精度と再現性の問題です。これまでは、食べたらどうなるか?、または投与したらどうなるか?でしたが、魚の油といっても世界中バラバラで、ω3の純度や不純物、酸化変質の問題がありました。

これでは、ω3とω6のバランスを人為的にコントロールすることは難しく、ω3の効果を示すにはそれ以外の影響因子を排除する必要がありました。

そこに登場したのが、ω3を合成できる線虫のfat-1遺伝子を組み込んだ「fat-1マウス」なのです。

fat-1遺伝子は、酵素によってω6(アラキドン酸)は⇒EPAに変換されるので、エサを含めて全く同じ飼育条件で、違うのはω3脂肪酸の比率だけという正確な対比が可能になりました。

通常実験でマウスの心臓の大動脈を狭めると、

⇒心臓に持続的な負荷がかかり、これを上回る圧量をかけて全身に血液を送ろうと、

⇒心筋を太くする(心肥大)が起きます。

そして炎症を伴う心筋組織の繊維化が起こります。これが心臓で起きると

⇒伸縮機能の低下を招き、やがて心不全になります。

ところが、fat-1マウスでは、心肥大は起こっても心筋組織の炎症と繊維化が強く抑制されました。この事が心臓に負荷がかかったときにω3が心臓を保護することが示されました。

全貌を明らかにするメタボローム解析

この解析方法は、代謝の一部だけを追わずに、全体的に行うものです。

近年の質量分析技術や、物性を調べるガスクロマトグラフィーの精度向上で、これらを有効に組み合わせたシステムを有田先生が開発されたもので、現在は、『ω3から生成する代謝物を包括的に解析する世界最先端の分析システム』を確立しています。

そして解析の結果、EPAの代謝物「18-HEPE(ヒープ)」と言う物質でした。

そして他のマウスとの比較など評価実験を経て、機能が明らかになりました。

哺乳類や魚類はω3脂肪酸を作らない

そもそも、炎症は悪なのでしょうか?という疑問が残ります。炎症は感染症等の外敵から生体を防御する反応です。

となると、強い炎症反応が起こりにくい『fat-1マウス』は、もしかしたら、感染症リスクの高い野生で生き残るには不利なのかもしれません。

私たちを含めた動物は、様々な細菌やウイルスと常に、戦ってきた歴史があります。そこにおいて炎症反応は絶対に必要ですから、心臓病のことだけ考えるわけにはいきません。

まだまだEPAなどのことは、解らない事だらけですから、あたかもω3脂肪酸を万能薬の様に見ることなく、今後の検証を見守っていくべきでしょう。

また、サプリなどで集中的に摂取したりせずに、食生活の中で体内に取り入れていくべきではないでしょうか。ビタミンでも、脂溶性ビタミンのβカロテンやビタミンEなどは、摂り過ぎによるリスクも報告されていますから。

EPAやDHAは脂肪酸そのものですから、今後の研究が楽しみですね。

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